エジプトからイスラエルへの入国審査

旅行

エジプトでのバカンスをあとにして、再びイスラエルへ入国することに。
イスラエルの入国審査。それは世界で一番厳しいと言われている。
私はこれまでの人生で三回イスラエルに入国したことがあるが、三回とも全て別室に送られている

少しでも怪しい人間は問答無用で地獄の部屋に送られる。そこでは入れ替わり立ち替わりに人が入って来て、同じ質問をしてくる。
そして、少しでも回答に矛盾や齟齬が生じればそこを突いてくる

たいていの場合は、長時間拘束された挙句無事に入国することができる。一部の人は、入国拒否され強制送還される。

私の個人的な主観になるが、入国の難易度としては空港が一番低い。次がヨルダンからの陸路での入国。そして最も難易度が高いのが、エジプト(タバ)からの陸路での入国だ。

なぜイスラエルの入国審査が世界で一番厳しいのか?
それは、イスラエルがこれまでに積み重ねてきた歴史に起因する。
イスラエルの歴史、それは、「テロとの戦い」だ。

ここでは敢えて政治的な問題には触れないが、イスラエルが幾度もテロ攻撃を受け、多くの犠牲を出してきたという事実だけは記しておく。
多くの犠牲を受け、それを教訓としテロ対策に重きをおく政策をとっている。そのため、入国審査もとても厳しく少しでも彼らにとって怪しい人は、別室に送られる。

イスラエルへの入国に関し、とてもネガティブな印象を抱いていた私だったが、今回のエジプトからイスラエルへの入国は、かなり楽観的に考えていた。
なぜなら今回はイスラエル人の友人一家と一緒に入国するからだ。
彼らと一緒なら、何かあった時に私の事を擁護してくれると思ったし、何よりイスラエル人と一緒にバカンスに行くということは、イスラエルに対して友好的な人間であると入国審査官に抱いてもらえると思ったからだ。
長い待ち時間を終え、我々の順番が回ってきた。
いくら入国審査が厳しいと言われているイスラエルでも、自国民へ対しては甘々だ。私の友人達は、いとも簡単に入国することができ、遂に私が入国審査官に呼ばれた。
とにかく第一印象が重要になると考えた私は、今までの人生で誰にも見せたことのない最高のスマイルを、全く見ず知らずのイスラエル人の入国審査官にぶつけてみた。
そして、彼にヘブライ語で「こんにちわ」と言ってパスポートを手渡した。
この数秒の間に私は自分の持っている全てを出し切った。あとは、入国が認められるのを待つのみ。
するとものの数秒でパスポートが返ってきた。
今までの経験から考えるとあまりにも早すぎる。これが、「イスラエル人の友達効果なのか」と思っていたところ。
後ろから年季の入った女性兵士に肩を叩かれた。彼女からは幾つもの修羅場を乗り越え、幾つものガラスの天井をぶち破ってきた闘う女性特有のオーラが溢れ出ていた
そして、彼女はそっとある一室を指さし私の耳元で「Go]と小さな声だが10キロ先にも届きそうな確かな声で呟いた。
その一室に入って私は、彼女がここのボスであること。そして、彼女が今までの私の入国の歴史の中で、最も手強い相手になるだろうと悟った。

どうやら、自分には手に負えないと思った若手の審査官が、この国境のボスを呼んできたらしい。
やっと私の相手としてふさわしい敵が現れてくれた。
今まで数え切れない程の怪しい人々を入国拒否してきた歴戦の戦士であり、国境の最後の番人
それに対するのは、幾多の入国審査官と戦い、何度も入国拒否を土壇場でひっくり返し、経歴からは普通ありえない入国拒否率0%。日出ずる国からの刺客。
彼女の対面に座らされ、彼女が私のパスポートを開いた瞬間に、闘いの火蓋は切られた

この時私のパスポート上には30個以上のスタンプが押されていた。
彼女は1つ1つのスタンプに関し、「なぜその国を訪れたのか?」「だれと訪れたのか?」「そこで何をしたのか?」「そこに友達はいるのか?」などの基本的な質問をして、私の回答を踏まえ更に踏み込んだ質問をしてくる。
そしてやっと全てのスタンプについての質問が終わったかと思ったら、まさかの2周目に突入。
そう彼女は長期戦に持ち込むことで、私の神経を衰弱させようとしてきた。
そこで私は、彼女にしばし休憩しようと提案した。彼女は承諾し、私にコーヒーを注いでくれた。

私は彼女のこの行動をチャンスと思い、彼女に「休憩を中くらいはリラックスしようよ」と軽いジョブを入れ、「名前なんていうの?」と右ストレートを放り込んだ。
そして、私と彼女はお互いのプロフィールを交換し、彼女との間にある心の壁を壊していった
彼女に息子がいるという話を聞いて、母性愛に訴える作戦を取ることにした
暗い話をして、沈黙を作り出し下を見る。そして、彼女の目を見てイスラエルに行けば明るい未来がある話をする。このパッケージをひたすら繰り返した。
すると15分後、私は彼女にハグされていた
彼女は国境の番人である自分の立場を忘れて、私を強く抱きしめてくれた。私は彼女の母性愛に包まれていた。
そして、耳元で「ようこそ」と呟かれた。
不可能だと思われていた闘いで、見事に勝利することができた。無事にイスラエルの土を踏むことができた。
ボスは私が入国するのを見送ってくれた。そこいたのは、国境の番人の姿ではなく1人の母親の姿だった。

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執筆者 日下部智海