エジプトのホテルでの話②

旅行

前回の続き
このホテルに到着してから、ずっと疑問に思っていたのだが、なぜかこのホテルは、異常に警備が厳重だ。
高級ホテル童貞だった私は、「これくらいの警備が高級ホテルでは当たり前なんだろうな~」と思っていたが、それにしても厳重だ。
ホテルの敷地に入る時、エントランスに入る時、ビーチから部屋に戻る時など、幾度となく金属探知機を使ったボデーチェックと荷物検査が行われる。そして、ライフルを持ち完全武装した警備員がホテルのあちらこちらに配備されている
別に要人が泊まっているわけでもない。これがこのホテルでは当たり前らしい。

冗談で「このホテルってテロリストに狙われているの?」とバーテンダーのムハンマドに聞いたところ。
うん。そうだよ。狙われていると言うよりも、一度テロリストによって爆破されたよ!もしかしてお前知らなかった?笑」と。
そんなこと初めて聞いたよ。知っていたらこんな場所来てないし。」と私。
今から10年前くらいに、爆破テロがあって100人くらいの人が亡くなったんだ。あの事件は最悪だった。」とムハンマドが呟いた。
だから警備が厳重なんだね」と私が呟いたところ、
今ここら辺の地域では、アンサール・バイト・アル・マクディス通称ABMっていうテロリスト達が暴れ回っている。彼らは軍や警察の検問所を攻撃したり、お前みたいな外国人の命を狙っている。でも安心してくれ、うちのスタッフ達は最高の奴らだ。このホテルにいる限りは安全だ。しかし、ホテルの敷地から一歩でも出たら、安全は保障できない。じゃあ、そういうことだからバケーション楽しんでね!」と言って彼は去っていった。

これだけ恐い話をしてきて、彼はどのような感情でバケーション楽しんでねと私に言ったのか?
いや、これは全て俺を恐がらせようとムハンマドがついた嘘だろう。そうでないと怖すぎる。テロリスト達の事じゃない。ムハンマドの事が。
取り敢えず事実確認をするために、コンスタンチンの下へ行った。
コンスタンチンにムハンマドから聞いた話をした。そしてその話が本当なのか聞いた。
すると奴は笑いながらこう言った「ハハハ、なるほどトモはホテルの外に出て、テロリスト達がいるか確認したいのか?」と。
私はこの時このクソ野郎に質問した事を後悔した。
今の話をどう要約したら、俺が外に出たいという事になるのか?こいつ控えめに言っても頭がおかしい。絶対にこいつ何かキメてるだろう」と思ったら、案の定キメテイタ。テンションが上がる魔法の草を。
ちなみに彼の言い分としては、「ポパイはほうれん草を食べて、ムキムキになるだろう?俺もこの草を吸えばあそこがムキムキになるのさ!この草は俺にとってのほうれん草さ!」とのことです。
何を伝えたかったのか、終始分からなかったですが、改めてこいつヤバイなと気づくことができたので良かったです。

そんなこんなしてると、彼は家族に「トモが外に出かけたいらしいから、みんな用意しろよ、」と伝えた。
流石にみんな無視するかな?と思っていたら、ママがノリノリでサングラスをかけ始めた。
そして私は死を悟った。
みんなが仕度をしているあいだ、私は、自ら、無理やり、脳内で走馬灯を再生した。普通なら死に際に自然と流れる走馬灯を自分の手で。
自分でもビックリするくらい薄い内容。そして、エンドロールで流れる登場人物の少なさ。
この時私は誓った。生きて帰って来れたら、「インドア派からアウトドア派になろう。」と。そして、「友達をたくさん作ろう」と。
行きたくなければ断ればいいじゃないか?」と思われるかもしれないが、ホテル代、夕食、クルージングなど全てコンスタンチンに奢って貰っていたので、断るという選択肢が存在しなかった。

ほぼ諦めに近い感情でホテルを後にした。
まず最初に見えたのは、軍の検問所だった。
武装した数人の兵士と彼らの心の支え、装甲車が僕らの乗る車を睨みつけるかのように、止まっていた。
検問所では、トランクの中や車の下に爆弾が仕掛けられていないかのチェックがあった。
コンスタンチンは、爆弾の一つや二つ気軽に車に積んでいそうな男だったので、内心とてもビクビクした。

無事に検問所を通り抜けて、無法地帯(ホテルの人曰く)へ足を踏み入れた。
僕の目の前に広がっていたのは、限りなく無に近い何かだった。
ここら辺一帯から生気が感じられなかった。

レストランのような建物 しかし、人っ子一人いなかった。

数軒回ってやっと人らしきものを見た。
彼らに話しかけてみたが、全く反応が無く、びくりともしなかった。
私にはそれが、人か、マネキンか、はたまた生きているのか、死んでいるのかさえ分からなかった。
私が今までの人生で感じてきた小手先の恐怖とは比べようもない恐怖を感じていた。
本当の恐怖とは、何も無いこと。そう無なのだ。と人類の真理に近づいていたところ、コンスタンチンは人らしきものと自撮りしていた。
こいつマジで死ねば良いのにな~」と心の底から思った。
一秒でも早くホテルに戻りたかったのだが、コンスタンチン一家は何か物足りなっかたらしくもう少し奥まで行こうと言いだした。
私に決定権はないので、渋々車に乗り込んだ。

車を走らせること数分、小さな小さなオアシスを見つけた。
オアシスと言ってもアラジンの世界観のオアシスではない。言うならば、寂れた地方の県道沿いに突如現れる、地元の期待を一身に背負った道の駅。
何かエジプトの物を買いたいとママが言ったので、寄ってみることになった。

エジプトと言えば、歌舞伎町のキャッチとは比べものにならない客引きのウザさで有名だ。
しかし、ここでは違った。
久しぶりにお客さんを見た衝撃でみんな目が点になっていた。
誰も話しかけて来ないので、こちらから話しかけた。
すると彼からこう言われた「なんで来たの?」と。
まさかお店に入ってこの質問をされるとは…恐ろしい
不意打ちのジャブを喰らったが何とか10カウント目で起き上がれた。そして、「お土産を買おうと思ってき来ました」と答えた。
すると「一応店は開けているけど、これあれだから、惰性で続けているだけだから。一応浮き輪とか水鉄砲とか置いてレジャー感を醸し出しているけど、誰も来ないから。なぜならここは、危険だと思われてるからだ。でもそれは間違った情報だ。ここは危険じゃないしテロリストもいない。なぜならここは、何もないからだ。ここは観光客にもテロリストにも見捨てられた土地なのさ。」と熱く語ってくれた。
観光客は、「テロリストがいるから行かないでおこう」と忖度し、その一方で、テロリストは、「観光客がいないから行かないでおこう」と忖度し、お互いが忖度した結果生じた空白地帯がここなのだ。
2017年に日本で、大流行した忖度が、まさか数年前にエジプトで先取りされているとは…


この店の主人はとてもフレンドリーで親切に色んな話を聞かせてくれた。
何か記念に買おうと思ったがあいにくエジプトポンドを持っていなかったので、買うことができなかった。
彼に申し訳なく感じたが、彼から「久しぶりに客と話すことができて楽しかったよ」と言われ、私の心は救われた。
ここを訪れる前に変な偏見を抱いていたことを反省し、ホテルへと戻っていった。

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執筆者 日下部智海

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