イスラム教の学校での話② 戦力外編

イスラム教

①からの続き
毎日、無料でご飯を頂いていたので、さすがにこの学校のために自分ができることをしたいと思い、先生にお願いしたところ、「君は大切なお客さんだから雑用とかはさせられないよ」と言われた。
それでも、何度も何度もお願いしたところ、鳩を捕まえる仕事を命じられた。
この仕事を命じられた時、意味が分からなかった。「僕の英語力が低いために、聞き間違えたのだろう、多分鶏肉を買ってこいってことなんだろう」と勝手に想像していた。
すると先生は、13歳のクソガキであり僕のライバルであるムジャヒドゥーを呼んできた。
どうやらこれはムジャヒドゥーの仕事だったらしく、ムジャヒドゥーが僕に仕事内容を説明してくれるらしい。
このムジャヒドゥーという少年は、いつも僕に戦いを挑んできて、自分が負けたら「トモミ ノット ベリ グッード」と片言の捨てゼリフを吐いて去っていく可愛いクソガキだ。
いつも負けてる僕に仕事を教えれるので、ムジャヒドゥーはとても嬉しそうだった。
そして僕は、ムジャヒドゥーによって、ベランダに連れてこられた。
その時に僕は全てを察した。「あっ、本当に鳩を捕まえるんだ」と。
「そもそも野生の鳩って食べれるのかな?」「なにか変な病気持ってないのかな?」と不安に思ったが、鳩のことを想像しただけでツバが垂れてるムジャヒドゥーを見て、そんな不安吹き飛んだ。

仕掛けは至ってシンプル。食べ残しの上にカゴを置いて、鳩がそれを食べた瞬間に紐を引っ張って、鳩を捕まえるだけだ。

正直に言ってこんなの簡単すぎるだろと思った。公園でパンを配れば鳩なんてすぐに寄ってくるから。
そんなこんなで鳩係に任命された初日、ものの数分で鳩など捕まえれると考えていた僕に大きな落とし穴が待ち受けていた。

それは、そもそも鳩がベランダに止まらない問題である。

別にトルコに鳩がいないわけではない。公園に行けば無数の鳩が歩いている。
しかし、ここは住宅街。そして3階。
今までの人生を振り返ってみて、鳩が2階以上の高さを飛んでいるのを見たことがなかった。
鳩が3階に飛んでくる想像ができない。
そういったことを考えているうちに日が暮れていった。

2日目、3日目は残念ながら1匹も捕まえられないどころか、1匹も鳩を見かけなかった。
昨日、一昨日と、外に遊びに行ったりして、真剣に鳩に向き合っていなかった。
そこで4日目は気合を入れて1日中窓の前から動かないことにした。
するとベランダに2匹の鳩が止まった。そいつらが餌に気付いて仕掛けのほうに来てくれれば、捕まえることができると思ったところでまさかの礼拝タイム
「あともう少しで鳩を捕まえれる」と言ったが、彼らには通用しなかった。
泣く泣く礼拝に参加した。みんなが(アッラー)神にお祈りしている時に、私は鳩が逃げない事を祈っていた。
そんな不純な思いなど通じず、ベランダはもぬけの殻となっていた。
折角のチャンスを逃した私に、再びチャンスは訪れず1日が終わった。

就寝前にムジャヒドゥーに散々馬鹿にされ、明日こそは捕まえてやると心に決めた。
しかし、昨夜の決心とは裏腹に翌日もその翌日もそのその翌日も捕まえることはできなかった。
そして、学校の雰囲気が明らかに悪くなっていった

なぜなら、ここの学校の食事はだいたい毎日同じで、ナンみたいなパンにヨーグルトをつけたり、トマトソースをかけたりする、とてもシンプルで、育ち盛りの男には物足りない。
みんな肉を求めている。しかし、私が鳩を捕まえれないので、肉を食べれない。でも肉を食べたい。
みんなが無意識に私に対して増悪の目を向けてくる。このままではみんなの不満が爆発して大変なことになりそうだった。

鳩係になってから10日目。ついに私は先生に呼び出された。
私と先生以外に誰もいないとても静かな部屋で私は戦力外通告を受けた
生徒たちから肉を食いたいと苦情がきている。みんな君の鳩係からの解雇を望んでいる。そう、これは、民意だ。頼む辞めてくれ。」と先生から言われた。
私は、その通告を甘んじて受け入れた。よくTBSの番組で見ていた状況がまさか自分の身に降りかかるとは。

シリアでは、民主化を求めてアラブの春と呼ばれる抗議活動が行われた。
残念なことに今では内戦化し、多くの人命が奪われ、ここの生徒もトルコに逃げてきた。
しかし、彼らはこの異国のこの小さな学校の中で、小さなアラブの春を成功させた。
みんなの声で、無能な男を失脚させることに成功した。

再びムジャヒドゥーが鳩係に任命された。
そしてものの数時間で、あの愛くるしいクソがきムジャヒドゥーは鳩を捕まえた
私が10日かけてもできなかったことをたったの数時間で。
今までの私の人生すべてが否定されたかのように感じた。

そして、ムジャヒドゥーは私に向かってこう言った「トモミ ノー べリ グッド。ヤーパン(アラビア語で日本)ノー べリ グッド。シリ(アラビア語でシリア)べリ グッド
私は膝から崩れ落ちた。彼は私の自尊心のダムを決壊させた。
それから、みんなが私の周りに集まり、SIRIコールを始めた。私はただ下を見ることしかできなかった。そして、今すぐにでも全日本国民に土下座したかった。
しかし、悪魔が私に囁いた「お前もSIRIコール参加しちゃえよ」と。
私は迷った。「ここで参加してしまうと一生日本に帰れなくなるのではないか?」「日本のみんなに顔向けできない。」と。
迷いに迷った挙句、SIRIコールに参加することにした。全てを忘れて叫んだ。あのひと時は、忘れられない。それぐらいの爽快感を味わうことができた。

そしてその後、寝ていた先生からお前らうるさいぞと怒られ、罰として生徒は誰一人として、鳩を食べることができなかった。

この後、先生により丸々食べられた。
次回 逆襲編

執筆者 日下部智海

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