天声小悟:海中の世論は

 とあるベンチャー企業に勤める友人から、バウリンガルならぬ「フィシュリンガル」の試作品を貸してもらった。防水加工と録音機能を施して海に一晩沈めていたら、思いがけないものが録音されているではないか。商品の宣伝の意味も含めて、ご紹介しよう▼磯の話題は、海洋汚染についてであった。「環境基本法ができてからというもの、水質汚濁は解消されたと思ったのに―」という嘆息が、まずきこえた。「これだけ汚れてちゃあ、アサリやカキも食い切れねえよ」。異常増殖したプランクトンに頭を抱える▼そのとき「マイクロプラスチックもそうだ」という声があがった。「砕けても分解されねえプラスチックは海中を漂い続けている。海鳥たちも被害に遭っているんだとよ」と、怒りを抑えきれない様子だ。「『脱プラスチック』の動きがあるみてえだが、今あるプラスチックはどうするつもりだろうか」と疑問の声もあった▼「沖縄では、サンゴが埋め立てられるかもしれねえらしい」と誰かが言った。「総理の地元は山口だったろう?これじゃあ下関のフグたちも肩身が狭いな、可哀想に」「いや、あいつらは元から嫌われ者だ。毒が強すぎる」と、珍しく陰口も飛び交った▼「また乱獲されやしねえか」「今回は他国の目があるから大丈夫だろう」。話は商業捕鯨解禁の件に移った。「クジラも気安く外には出られねえな」「ライオンを見習って、雌がエサをとってくるのはどうだ」。魚版働き方改革についての話が盛りあがる▼結局、捨てられたエサを当番魚が巣に運ぶことに決まったところで、電池が切れた。翌朝、撒き餌だけが見事になくなった。(参考:天声人語/1973/10/31)

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